きれいな川とおいしい空気につつまれた東成瀬村に杉山家はあります。煙突からまきストーブの煙が立ち上る風景は、一昔前にタイムスリップしてしまったようです。
私たちを満面の明るい笑顔で迎えてくれる杉山彰・あおいさんご夫妻。「なるべく買い物はしない!」がモットーのご夫妻。自家製の野菜や大豆、小麦粉を使って、うどんやお菓子、パンまでも作ってしまいます。みそ・しょう油までも手作りです。
「お肉がめったに食べられないのがつらい。昨日もチラシにのっているお肉をしばらく見つめていました」と妊娠10か月のあおいさん。
「最近、にわとり見るとすぐ肉だ、肉だ!って言って困ります(笑)。でも、こっちに来てから肉も砂糖の入ったものもあまり食べなくなったら、あおいのアトピーがすっかり治ったんですよ」と彰さん。
農作物は自分たちで試行錯誤しながら作っています。収入を得るためではなく、自分たちが食べるためという意味合いが大きいようです。
では、杉山家を支える収入源は何でしょう。それは「にわとり君たち(飼育数200羽)の卵」。冬場で一日70個から80個。夏だと140個くらいの卵を産むそうです。冬はあまり産まないので、家計が厳しくなるとのこと。にわとりは杉山家の原点。にわとりなくして杉山家を語ることはできないでしょう。
なぜこのような生活を始めたのでしょうか?
あおいさんは東京の大学でワンダーフォーゲル部に所属していました。山の魅力に取りつかれ、卒業後は登山用品店に勤めました。「こんなに山が好きなんだから、いっそ山で暮らしたい」という思いが日に日に強まっていました。
一方、彰さんは農家の三男。彰さんのお父様は「農家なんてやるもんじゃない」と毎日おっしゃっていたそうです。農家をやることなど全く念頭になく東京で一般企業に就職。しかし、何か自分には合っていないという違和感を抱いていました。
そんな折、あおいさんと出会い意気投合。さっそく田舎暮らしの計画が持ち上がりました。現在のお住まいは雑誌で紹介されていた物件で家と畑に裏山付きで月々2万円。
「見つけた時は安い!と思ったのに、こっちに来たら周りの人に高い高いって言われるんです」。お気に入りの物件も見つけ、入籍も済み、新生活への準備は万端。にわとりたち30羽を引き連れて東成瀬村にやってきました。
「この村に暮らし特に困ったことはありませんでした。周りのみなさんも温かく迎えてくれました。ただ、最初はみんな遠巻きに見ている感じでした。後になって聞いてみたら、潜伏している某新興宗教の人たちと勘違いされていたみたいでした(笑)」
ひよこと赤ちゃん、どっちがかわいい?
移住後間もなくあおいさんのおなかに新しい命が宿りました。活動派のあおいさんは「妊娠中は何にもできないのがとにかくつらくて」と当時の心境を語ります。妊娠中も体力のない彰さんをフォローするため、力仕事はあおいさんが引き受けていたほどです。
「子どもが生まれるまで母性本能とか感じないタイプだったので、自分の子をかわいがれるのか本当に不安でした」とあおいさん。
「赤ちゃんが生まれても、きっとひよこの方がかわいいと思うってあおいが言うんで、こっちもだんだん不安になってきちゃいました。自分自身も子どもは苦手な方だったので、これからどうなるんだろうって思いましたね」と彰さん。
しかし実際に赤ちゃん(現在4歳になる女の子、春ちゃん)が生まれると、「何てかわいいんだろう!ひよこよりやっぱりかわいい!」と2人とも思ったそうです。特に彰さんの方はメロメロで、春ちゃんのことを話す時は目じりが下がります。
「昔の生活をしているせいか、春は鼻水垂らしてほっぺが真っ赤で、昔の子どもみたいなんですよ」と彰さん。あおいさんの母乳が早く止まったため、春ちゃんはヤギのお乳を飲んで育ちました。
生まれたばかりの春ちゃんを連れて山菜取りに行ったこともあったそうです。「春はその辺に置いといて、親は山菜取りに夢中。戻ってきたら顔が真っ赤に日焼けしてて、さすがにあれはかわいそうだった」とあおいさん。それでもちゃ−んと大きくなっています。
この4月に出産予定の2人目のお子さんも、弟か妹はいた方がいいというごく普通の思いからでした。杉山さんのような生活でもちゃんと元気に子どもは育ちます。「2人目は欲しいけど、家計的に無理ね」なんて、この夫婦にはないみたいです。
いつも夫婦2人で…
私たちの質問にはいつも2人で答えてくださいました。私はこう思う、おれはこう思うではなく、2人で1つの文章を作っていく感じ。いつも同じ時を過ごし、同じことを感じ、同じことを考えているということがよくわかります。
「春が保育園に入園する前までは、やっぱりできることに制限があって、イライラすることもありました。でも、夫がいつも側にいるので、困ったことは何でも2人で解決してきました。それに比べて都会に住んでるお母さんたちは、ほんとにえらいと思います。お父さん帰ってきませんもんね。ふだんの子どもたちの様子を見ていない夫に何か相談したところで、何がわかるんだー!っていう気持ちになると思います」
子どもたちへ望むこと
「子どもたちには僕たちの生活を手伝いながら、そのままこの生活を引き継いで欲しいと思っています。でも子どもが、こんな生活いや!と言ったら、まあ、仕方ないかと思うしかないですね。特に押し付けようとも思いません」と彰さん。「子どものやりたいようにやって欲しいとは思います。でも、家計の関係でそうとも言い切れないのですが」とあおいさん。
こうだったらいいのにな
「埼玉に住む私の両親に一緒に住んでもらいたいです。今はにわとりの世話があるので家を離れることができません。両親に来てもらって家の手伝いをしてもらったり、自分たちは旅行に行ったりしたいです」とあおいさん。同居が敬遠されがちな今日この頃ですが、一生懸命生きている杉山さんたちには両親も働き手の1つのようです。
取材を終えて
杉山さんご夫妻の生活は「貧乏田舎暮らし」かもしれません。でも、2人の心の繋がりや培ってきた時間はとてもリッチだと思いました。杉山さんご夫妻に比べ、都市生活を送っている私たちは無駄なものが多いと思いました。昼夜を問わず働きづめになっていませんか。大事な「家族の時間」を失っていないでしょうか? 無駄なものを捨て究極のスローライフもいいかもしれませんね。
ちょっと宣伝
杉山家の家計を支える卵は1個30円で売られています。その他にも副収入はあります。それは、彰さんの音楽活動!毎週水曜日12時半から13時まではFMゆ〜とぴあ(湯沢市76.3 Mhz)で「あきらの田園ポップス」がオンエア中です。祭りの余興として営業活動も行っているそうです。
「時代遅れ」入門日記(無明舎出版)も好評発売中。
ホームページ「んだすか」でも杉山さんご夫妻の生活をかいま見ることができます。
東成瀬通信「んだすか」:http://hello.to/ndasuka/