今年の春、ある新聞記事が目にとまりました。
横手市に住む女性が、絵本作家として第2作目を完成・出版したという内容です。しかもこの方は私の友人のお母様でもありました。驚くと同時にこれまで表現活動を続けてこられた熱意と気持ちを伺いたく、ご自宅を訪ねました。
第1作目「ぼくのきもちわかってよ」を出版された経緯を教えて下さい。
中学生の頃から「いつか絵本作家になりたい」という夢は漠然と持ち続けていました。
「絵本作家になる」夢の実現へ向わせるきっかけとなったのは、息子の大学受験失敗でした。彼が今まで抱いてきた夢を安易に変えないでほしかったので、私も一緒に夢の実現を、とその時奮起したのです。
それまでも絵を描くのは大好きでずっと続けていましたし、幼稚園教諭という仕事柄子どもたちから貰ったエピソードやドラマ、表情などは長年にわたって私の中にため込まれていました。
その中から一番いい瞬間を描くためには、写真家が最高の瞬間を撮るために一点を狙ってジッと待つように、手法や構図の試行錯誤を繰り返し、今のスタイルに辿り着きました。
こう話すと大変そうですが、好きな事をやっているのだから困難や行きづまる過程も同時に楽しいものでした。
実際に本として出版する方法がまるで分からなかったのですが、「公募ガイド」という雑誌で出版社が本にする題材を募集している事を知り、仙台での説明会に参加しました。
この時は中学生の時に考えた童話に絵を付けたものと、「ぼくのきもちわかってよ」の原稿を持って行きました。そして共同出版という形で出せる事になったんです。
息子さんの出来事がご自身の夢の実現に繋がったというのも不思議なエピソードですね。 宙さんご自身は子どものころはどんな子だったんですか。
一言で言えば「あぶない子」でした(笑)。
好奇心が先走って行動してしまうタイプで、いつも首根っこをつかまえられているような子どもでした。
たとえば、皆瀬の間欠泉(岩の割れ目から熱泉が噴出するもの)を見に行った時もですね。噴き出すのが不思議で、そばに行ってその穴を覗きこんだりするなどです。
その性格は今でも変わりませんね。年中きょろきょろしてますよ。また、気が付くと、動物や物と対等に会話してるし、猫や虫に話しかけたりは日常ですから(笑)。
この間もお風呂場のカビ退治をしていて、どうしてもすっきり落ちないのが悔しくて、天井のカビに向って「今日はこの辺でカンベンしてやるっ!!」と言ってやりました(大笑)。家族もそんな私を見慣れてますから何も言いませんね。ああ、またかって感じで。好きなようにやらせてもらってます。
好きな事と言えば、私は声楽もずっと続けてきたんですが、長男が小学校3年生、次男が小学1年生、長女が幼稚園の年中組の時に子どもを実家の母に預けて声楽のレッスンに通わせて貰いました。「やりたいと思ったときやらないと…」って母が後押ししてくれたんです。夫には事後承諾でしたが止めろとは言われませんでした。
よく「子育てを終えてから」「退職してから」と言うのを聞きますが、やりたい時を逃すとやれなくなってしまうと思うんです。好きな事は「ごめんなさい」と言いながら、細々とでも続けることが大事だと思います。
私の生き方としては、今この状態からできる事をやっていく、無理せず自分のペースを守りながら続けることが頑張るってことだと思います。「継続は力」になることを信じて夢と目標を持って好きな事はやめないでいくことですね。誰にでも、自分でも分からない未知数の力ってあると思いますから。
今まで、周りに応援されながら続けてきた歌や絵本、好きでやってきたことですかが、見て、聴いて、ひとりでも幸せを感じてくださったり共感していただけたら嬉しいなって感じます。
これからも、私なりの思いを歌や絵本を通して出来るだけ伝えていきたいと思ってます。
そういう「おおらかさ」でしょうか、宙さんの絵本は間口が広くて、子どもだけでなくもっと幅広い層から愛されているように感じますね。
大仙市の画廊喫茶「ブランカ」さんで「ぼくのきもちわかってよ」の原画展を開催の時、80歳を過ぎた男性が私の来るのを待ってくださっていたことがありました。
その方は私の絵本の場面から、自分が幼い頃道の真ん中でだだをこねて母親を困らせた事を思い出したんだそうです。それでどうしても私と会って話がしたいと思ったんだそうです。
また文通を続けている方もいます。この方は80歳代の女性で、私の絵本を読んで感動したとお手紙を下さったのが縁でした。今でも手紙のやり取りが続いてますが、実はまだお会いした事がないんです。絵本を出版した事で新たな出会いがあった事は本当に私の宝物だと思っています。
好きな絵本が新たな人との繋がりを運んできてくれたのも素晴らしい縁ですね。宙さんは長年子どもと親の関わりを見てきて何か感じることはありますか。
もっともっと、たくさん接してほしいと思います。子育てを一緒に自分の身を持って体験してほしいと思います。人との関わりは一生続くものですから、親と子で遠慮せず「心のキャッチボール」をしてほしいです。同じ空間でお互いの気持ちをやり取りしてほしい。今しかない、この時期に心を開いても安心な関係を築いてほしいと思います。
夏休みに親御さんから「長い時間を子どもとどう過ごしていいか分からない」という相談を受けた事がありました。自分の子どもとどう係わればいいか分からず不安な親御さんもたくさんいらっしゃいます。
でも人任せにしないで!! 手放さないで!! と言いたいです。子どもといっしょにいられる、子どもが目の前にいる「今」ほど楽しい幸せな時間はないんです。そんな時もあっという間です。束の間の大変を幸せと思って頑張ってほしいですね。
今の子育て環境への考えや子育てをしている人へのメッセージをお願いします。
子どもが小さいうちは出来るだけ親といっしょにいられるようにするのが「子育て支援」の目指すところだと思っています。
元水泳選手の長崎宏子さんが、生まれて2ヶ月の長女を抱いてプールに入った時、その子が水の中でニコッと笑ったんだそうです。そして長崎さんもそれを見て親としての幸せを感じ、プール教室を通してそれを伝えようとなさっています。そういった親と子がいっしょに何かをやって「可愛い!」「楽しい!」と感じるような子育て支援ができればいいですね。
子育ては楽しいことばかりではありませんが、やはり小さい時から自分で育てないと愛おしいって気持ちが沸いてきませんよね。日常生活の中でも毎日同じ事の繰り返しは一つもありません。
小さな事の積み重ねこそが子育ての営みなんだと思います。昨日より今日、今日より明日前に進んでると思って自らを励まして、ほんの小さな事にも喜びを持って「よかったよかった!」って子どもと向き合っていく事が大切だと思います。
子どもの育て方なんて、おそらく人それぞれで千差万別だと思いますが、「大切なこと」はあります。親と子を基盤とする、人と人との「絆」や「つながり」の深さや温かさを身をもって知らせること。今、この時に子どもといっしょにいられる時間を目いっぱい楽しんでほしいですね。
(インタビューを終えて)
宙 一花さんというペンネームは「宇宙でただ一つの花」という意味なのだそうです。自分もこの世界でただ一人の尊い花であるように、他の人々、生き物、その他すべてがこの世界にたった一つの尊い存在であること、その貴重さ、ありがたさを表しているのだそうです。お話を伺っている間、ずっとやさしく微笑んでいた宙さんにぴったりのお名前でした。